Q. ガンダムで木製にエネルギーとしてヘリウム3を採集に行くという描写が時折出るのですが、どのようにエネルギーとして使うのですか
A. ご質問ありがとうございます。ガンダムシリーズ、特に宇宙世紀を舞台にした作品で描かれる「木星でのヘリウム3採集」は、物語の根幹を支える非常に重要な設定です。
なぜわざわざ木星まで行き、どのようにしてエネルギーとして使うのか、順を追って解説します。
まず、エネルギー源となる「ヘリウム3」そのものについてです。
ガンダムの世界では、人類が宇宙に進出し、モビルスーツや宇宙戦艦、スペースコロニーを維持するために莫大なエネルギーが必要になりました。地球圏(地球や月)で得られる量では全く足りないため、豊富なヘリウム3が眠る木星まで、危険で長大な航海をして採集しに行く必要がある、という設定です。
『機動戦士Ζガンダム』に登場するパプテマス・シロッコが率いる木星船団「ジュピトリス」は、まさにこの採集任務を行っていた船団です。
ここがご質問の核心部分です。ヘリウム3は「核融合炉」の燃料として使われます。
太陽が輝いているのと同じ原理です。軽い原子の核同士を無理やり合体(融合)させると、少し重い原子の核に変わります。このとき、質量のほんの一部が莫大なエネルギーに変わる、という現象を利用します。
ガンダムのモビルスーツなどに搭載されている「ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉」は、主に以下の核融合反応を利用していると設定されています。
D(重水素) + ³He(ヘリウム3) → ⁴He(ヘリウム4) + p(陽子) + 莫大なエネルギー
これを分かりやすく言うと、
「重水素(D)とヘリウム3(³He)を、超高温・超高圧の炉の中でぶつけると、安全なヘリウム4と陽子に変わり、その過程でとてつもないエネルギーが生まれる」
ということです。
この「D-³He反応」には、他の核融合反応に比べて非常に優れた利点があります。
このエネルギーがあるからこそ、モビルスーツは巨体を動かし、ビームライフルやビームサーベルといった強力な兵器を使用できるのです。
ガンダムにおけるヘリウム3のエネルギー利用をまとめると、以下のようになります。
この設定は、ガンダムの世界に科学的な説得力を与えるだけでなく、「木星帰りの男」シロッコのようなキャラクターの背景や、エネルギー資源を巡る地球圏の政治・経済ドラマに深みを与える重要な要素となっています。
Q. モビルスーツのパワーパックを破壊すると放射線が出るという描写を見た気がするのですが木のせいでしょうか
A. いえ、それは気のせいではありません。鋭いご指摘です。
「ヘリウム3を使った核融合はクリーン」という説明と、「MSの動力炉が破壊されると放射線が出る」という描写は、一見すると矛盾しているように感じられますよね。
しかし、これはガンダムの世界設定において両立するものであり、その理由を解説します。
ポイントは「正常に動いている時」と「破壊された時」の違いです。
正常運転時(クリーン):
モビルスーツの核融合炉は、D-³He反応が最も効率よく、かつ安全に起こるように精密に制御されています。この状態では、有害な中性子の発生は極限まで抑えられており、クリーンなエネルギーを生み出します。だからこそ、コロニーや都市のすぐそばでMSが稼働できるわけです。
破壊・暴走時(危険):
しかし、戦闘で動力炉に直撃を受けたり、制御不能に陥ったりすると話は全く別です。
制御不能による副反応の発生:
炉内の超高温・超高圧のプラズマが制御できなくなると、本来は主反応ではない「副反応」が起きてしまいます。特に、燃料として使われる重水素(D)同士が反応(D-D反応)してしまうと、中性子(n)が発生します。D + D → ³He + n(中性子)
D + D → T(三重水素) + p(陽子)
この発生した中性子は非常に強力な放射線であり、周囲の物質を放射化させて汚染します。
核爆発に近い現象:
動力炉が破壊されると、閉じ込められていた莫大なエネルギーが一気に解放されます。これは厳密な意味での「核爆発」とは少し異なりますが、極めて大規模な爆発を引き起こします。
この描写が最も顕著なのが『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』です。主人公シロー・アマダが、撃破された敵モビルスーツを見て「核爆発だ、伏せろ!」と叫ぶシーンがあり、動力炉の破壊が核兵器に匹敵する危険性を持つことが明確に示されています。
放射性物質の飛散:
炉心では、反応の過程で三重水素(トリチウム)のような放射性物質がごく微量ながら生成・存在しています。炉が破壊されれば、これらの物質が未反応の燃料などと共に飛散し、放射能汚染を引き起こす可能性があります。
一年戦争の初期に結ばれた「南極条約」では、NBC兵器(核・生物・化学兵器)の使用が禁止されました。
しかし、モビルスーツの動力炉が破壊されれば、結果的に核兵器を使ったのと同様の汚染を引き起こす可能性があるため、「動力炉を意図的に狙って誘爆させる行為」や「大都市、コロニー内での戦闘」なども条約や慣習で制限されるようになります。
このルールがあるからこそ、逆にこれを破る行為(例えば『0083』のデラーズ・フリートによるコロニー落としなど)が「非人道的な大罪」として描かれるのです。
この「平常時は便利でクリーンだが、一度壊れれば核兵器並みに危険」という二面性が、モビルスーツという兵器にリアリティと恐ろしさを与えている重要な設定と言えるでしょう。